ブランドの想い
ミマツ工芸 記

古来から日本人の暮らしと共にあった木材。
機能性だけでなく、木材ならではの温かさや安心感が私たちの生活を支えています。
佐賀県と福岡県の南部にまたがる筑紫平野の中心に位置する福岡県大川と佐賀県諸富地区は、日本最大の家具生産地。
木に関する素材から製作まであらゆるプロが集積する地域です。
その地域で木の繊細な小物づくりに特化した「ミマツ工芸」は、暮らしに心地よさをもたらす木のプロダクトに取り組んでいます。
- 大切なツールに置き場をつくる「M. SCOOP(エムスコープ)」2008’~
- 国産の杉の木目を生かした日本伝統の模様の贈り物「NENRIN(ネンリン)」2018’~
- 暮らしに花や自然の表情を取り入れる「GREEN(グリーン)」2022’~
佐賀県神埼市にある「ミマツ工芸」は、青々とした田んぼに囲まれた環境で、心地良い木の香り漂う、工房及びショップで営業を行っています。
大量生産の時代から自分が作りたいブランドへ ( ~2010′ )

「ミマツ工芸」は、昭和47年(1972年)に創業。
シンプルな家具が好まれる現在と違い、当時はヨーロッパ風の装飾が施された家具の需要が高い時代。
大川家具を分業で作る地元で家具がどんどん売れる時代の流れに乗り、菓子職人をしていた父親は木製のテーブルの足を作るための会社を立ち上げました。
一帯では家具関連の木工業がどんどん栄えていきました。
元はテーブルの丸い足だけを作っていた父親の会社も工場を拡大して大型の機械を導入し、婚礼タンスの扉や引き出しを作ったり、建築関連資材も作ったりするようになりました。
1986年頃は、朝の8時から夜中の12時まで働くような時代。
そこまでしないと生産が追いつかないほどの勢いでした。
ただただ発注された部品をがむしゃらに作る日々。
お客さんの顔が見えない商売に
「こんなに大量なものがどこにいくんだろう」
「本当にどこかの家に入っているのか」
「いつかは仕事がなくなるんじゃないか」
という疑問や不安があった。
1996年頃は、会社の将来を考えるために先進地の視察などいろんな場所に出かけ、市場にあるモノとないモノマーケティングを行った。
「うちの会社だったらどんな魅力あるモノがつくれるのか」
との模索葛藤を行いながら2006年40歳を機に自社製品開発事業をスタート、2008年に自社ブランド「M. SCOOP」を立ち上げます。
2009年、初めての東京展示会への出展後、モバイルキャッチャーが大ヒット。
大手百貨店やセレクトショップとの直取引もあり少しづつ売り上げも伸びていく。
その後、バイヤーの意見重視での開発が増え「こんなものなら買いますよ」との言葉を受け、時代に旬な「iPodやiPhone関連」の商品を開発。
「自分は、どうかなー?と思っても買い取ってくれる・・・・そんなものづくりでいいのか」。
そんな疑問との葛藤の末、「自分が欲しいと思うモノや、大切な人の贈り物にしたくなるモノを作る」との決断のもと、2010年「M.SCOOP」のリブランディングに着手しました。
これまでは、企画営業はスタッフにまかせ、作る事に徹していたが、リブランディングを行うと決めてからは、自らが企画やお客さんとの窓口も行うようになる。
当時は、スティーブ・ジョブスが活躍していた時期。
「あんなスマートなもの(iPhone)を持って軽やかに仕事をこなすような男になりたい」という憧れから
「そんな男性になりたいなギフト」
「かっこいい男性になってよギフト」
をつくる方向性が固まりました。
国と時代を超えて愛されるものに心地いい置き場所を ( 2011′ ~ 2012′ )

国と時代を超えて愛されるものに心地いい置き場所を ( 2011′ ~ 2012′ ) 「モバイル、腕時計、メガネ、ペン」。この四つは實松自身が毎日必ず身に着け持っていくもの。
さらに共通するのは、 どれも好きなモノに拘っているということ、いつの時代も必要なツールであろうということ、 全世界共通であるモノ、という想いでこの四つに関連するものを作ることにしました。
デザインはプロにお願いし、数か月後に出た複数案のデザインにメガネ置きがあった。
「メガネ置きは、ミマツ工芸の原点であるテーブルの足(ロクロ)をイメージしました」 と、デザイナーの一言に、「すごい、さすがプロだ!」と感じた。
美しいデザインを最高の上質な作品に仕上げる事が、ミマツの仕事であり、 流行りや売れ筋ではなくても「僕らが良いと思うものを、 多くなくても共有できる人に届けていければいい」 という納得できるやり方で、製品開発を行うこととした。
そして2012年、M.SCOOPの「メンズギフト」が発売され、 今ではブランドのベストセラーになっている。
基本は、インダストリアル製品。


こちらは「M. SCOOP」のペン立てにもメガネ置きにもなる商品(70G case)。
お客様の要望から生まれました。
グラスプレイスは大好きだけど、日常使う眼鏡は箱タイプが使いやすい為
大切な眼鏡を安心して入れるシンプルなデザインの木製箱が欲しいとのこと。
デザイナーからシンプルなデザインが上がり、試作を行う。
「試作品を一つ作る際は、極端な話一個一個調整すれば形になる。
しかし、発売を目指すには、100個均一な精度を保った製品づくりが必須。
「『削った状態が仕上がり』ぐらいのレベルにしなければ整わない」、
あとで補修するという気持ちは絶対NG。
予想通り、発売までは2年以上の月日がかかり、
デザインの細部クオリティーや、箱内部のフェルト貼りなど、複数の工程を経てようやく完成。
(開発 2015’)-(発売 2017’)
ヨーロッパで与えられた課題から生まれた「NENRIN」 ( 2015′ ~ 2018′ )

2015年と16年。世界に進出したいという思いもあり、以前から「世界で一番魅力的な 展示会」と聞いていたパリで開催される「MAISON&OBJET(メゾン・エ・オブジェ)」 に「M. SCOOP」を出展しました。
一つ一つ手を抜くことなく、どこから見ても きれいに仕上げた自社の製品たち。来場者がペン立て一つにしても隅々まで注目し 「OK!」と、サインを行い購入に繋がる場面は、とても自信につながった。
「自分で会場を見て回っても『僕らが作っているもののクオリティーは高いんだ、 いいものができているんだ』と感じた。
ただ自身の自慢のペン立ての下代と 昼食のサンドイッチ+飲み物価格が同等だった点から、自身の価値感に違和感を覚えた。
もう一つ課題になったのは「なぜアメリカの木を使っているのか」という来場者からの問い。

地元の家具業界では九州にない広葉樹をアメリカから輸入するのが当たり前でした。
「日本には木が生えてないの?」とまで 言われてしまい、「自分の地域に何があるか」「日本らしいものはなんなのか」という模索が始まります。
模索を始めて思い出したのは、1998年からコツコツと作り直売していた丸太の年輪時計。
佐賀県産の杉の木目を生かした丸太時計で、退職や還暦、米寿などの節目に、 その人の歩みをたたえて贈るメッセージ性のある商品です。
切り倒してから加工するまでには一年ほど上手く乾燥させなければならないため、 作れる数はかなり限られていましたが、お客さんの顔が見えない商売をしていた 時代でも、唯一お客さんと直接やりとりをして「買っていただいた喜び」と 「自分の仕事が本当に喜んでもらえている喜び」を確認できる商品でした。
ただ、佐賀の杉の木は形も色もバラバラの為、「シンプルで美しいプロダクト製品が 生み出せるような素材ではない」と思っていた。
そんな時に「年輪経営」を掲げる大手自動車メーカーから、自社の森の杉を使った 丸太時計を毎年50個つくってほしいという依頼を受けます。(2016’) その時に向こうから送られてきた木が、ぎゅっと小ぶりできれいな丸太でした。

ここまできれいな杉を初めて見た時、「こんな杉だったら、新たなプロダクトが できるんじゃないか」と、新たな「新年輪時計」プロダクトに取り組む事にしました。
こうして試行錯誤しながらたどり着いたのが、国産の杉の木目を 生かして日本伝統の吉祥文様に仕上げた新しい年輪時計です。 「一本の木からつくる」ことに意味がある従来の年輪時計の思いは そのまま、さらに「おめでたい」ことを意味する日本伝統の紋様を、 自然の木目で表現することで、杉の美しさと日本らしさがつまった 商品のブランド「NENRIN」が、2018年に完成しました。 現在、年輪時計は商標登録されています。

- NENRIN CLOCK 矢絣
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回転しながら風をきり、矢を的へと的中させる矢羽根は、武運長久や立身出世を願う縁起柄のひとつとされています。
- NENRIN CLOCK 波紋
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日本の伝統文様“青海波”は、「いつまでも穏やかな暮らしが続くように」という願いが込められた縁起柄です
- NENRIN CLOCK 市松
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古くから装飾等に用いられ上下左右にどこまでも繋がっていることから繁栄などの願いが込められた縁起柄です。
- NENRIN CLOCK 縞
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太い線と細い線が織り成す縞模様は“孝行縞”とも呼ばれ、家内安全、家内繁盛を願う縁起柄です。
「NENRIN」では、木の選別は全て實松が担う。( 2018′ ~ )

木も人と同じように、長い時を経て成長します。その際に個別の成長痕や色、風合いを併せ持って成木となります。
建築木材として見れば評価が低くても、木表、裏、柾目、板目、木口やカット面など、何処かにその木が持つ個性美があるとの想いから、一番美しい吉祥文様になるよう、實松の美感で選別します。
世の中には、ガラスや金属等、素材の良さを生かした魅力ある製品がたくさん存在しています。
「僕は、木という素材が持つ個々の表情の違いを最大限引き出した美しいモノが、僕のつくりたいもの」
時をかけて育つ木だからこそ、歴史を讃える周年、唯一無二の人生の節目を労うそんな用途で使って欲しい。
晴れの日も雨の日も・・10年、20年、50年かけた個々の成木だから、一番美しい所(個性)を生かし作りたい。
足元にある楽しさを ( 2021′ ~ )

一方で「GREEN」は、一輪挿しを生活に取り入れるためのブランドです。テーマは「日常の足元」。
野草が好きな實松さんが、野草があることで感じる「いつも行き来する道でのワクワク」を共有したいとの想いから生まれました。
「野草は、風に揺れる細く繊細な茎や葉っぱが絶妙に美しく、つい眺めてしまう。
しかしこれは流石に作れない!
だったら、それに合うものを開発し心地良い暮らしの場をつくろう」という想いで商品ができています。

使われる木材は、自然にしかない個性や表情、美しさを代表するものたち。
そこに、一輪挿し用の試験管などが付いています。
展示会がある時には、東京でもどこでも街中を散歩して自分でとった野草を持参しています。
「ビジネススーツを着て、野草を持って歩いてるような男性、そういうスタイルいいと思いません?」と實松さんは笑います。
ミマツ工芸では、實松さんが試作品をつくった後、従業員に一つ一つ作り方を教えながら
削る、切る、貼る、組み立てるなどの作業を任せます。
「同じものを作れないと製品化できない」。
再現性が求められるため、試作品から製品化するまでに
数年かかることもあるそうです。
取材を終えて
ペン立て一つにしても「多分こんな(こだわって)やってるのは珍しいかもね」と嬉しそうに言う實松さん。
自身が本気で楽しんで納得できる仕事をしているのが伝わってきました。
「自分がどうありたいか」「どうあったら自分がもっと心地いいのか」。
注文された数をがむしゃらにこなしていた下請け時代と打って変わり、實松さん自身が変わらないものに目を向けて、
心地よいものづくりを追求するようになりました。そうした中で、その時々の出会いや感性が商品に生かされているからこそ、
私たちの暮らしにも心地よさをもたらすものができているのだと感じます。
「生み出す製品は、永久デザインの想いを持って作っていきたい。常に改良を続け、もっともっと本物の機能を
追求していきたい」と語る實松さん。これからも目が離せません。
